多田羅迪夫紹介ブログ

多田羅迪夫紹介ブログ2022〜

令和4年9月 雨滴聲 raindrop voice

もうすぐ神無月(10月)。諸神が出雲に集合し、他の地では神が不在になる月。

いつの間にか蝉時雨は止み、夕べには虫の音が聞こえる季節ですが、夏から初秋にかけては台風の季節。近年、日本に接近する台風の勢力が強まって被害も大きくなっているようです。

台風15号の影響により静岡県各地での浸水停電、断水のご不便いかばかりかと心配です。被災された方々に、心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。

 

また、令和4927日には、私の故郷、香川県坂出市、白峰山の麓に鎮座する神谷(かんだに)神社で、本殿の屋根が落雷による火事に遭い、檜皮葺(ひわだぶき)の屋根などが焼けてしまったとのこと。

この本殿は、鎌倉時代初期(1219年)に建築され,建築年がわかるものとしては,現存最古の神社建築として国宝に指定されています。

檜皮葺とは、屋根葺き手法の一つで檜(ひのき)の樹皮を用いて施工される日本古来から伝わる伝統的手法で、出雲大社をはじめ多くの文化財の屋根で見ることができます。

神谷神社の後方には霊峰白峰山が聳え、白峯寺を中心とした豊かな自然に恵まれた地。

自然の脅威を感じつつ、早い復興を願います。

 

私は近年、神社建築や伊勢神宮系と出雲大社系の違いにも大変興味があり研究しているので、またいつか神社については、詳しく書きたいと思います。

 

 

さて、以前、泉鏡花高野聖(こうやひじり)』のことを書きました。

江戸時代に書かれた上田秋成雨月物語』の流れを汲むような伝奇小説であり怪奇小説の流れを汲む作品です。

今ではインターネットでも原文を読むことが出来るのですね。

青空文庫 

http://www.aozora.gr.jp

 

初めて『高野聖』を読んだのは高校生の頃で、原稿を書くために久しぶりに読み返して眺めていたら、目録のところに兄の名前の判子が押してあることに気づきました。年長の兄が読んでいたのを借りて読んだのでしょう。

 

私は子供の頃、文字を覚えるのがとても早かったので、随分本も読みましたが、幼い頃、祖父が私に平仮名とカタカナを両面に書いた小さな札で遊んでくれて、それをひっくり返しては、声を出して覚えるのが楽しかったのを思い出します。

文字というものが、何か知らない世界を教えてくれるとても魅力的なものに思えていました。

 

その後、泉鏡花のオペラ『天守物語』の姫川図書之助を演じた時には、かつて読んだ『高野聖』が役作りの根底にありました。

泉鏡花の作品には、美しい妖怪(あやかし)が登場するものも多いのですが、それはどこか人の力では制御しきれないし自然の猛威にも似ているようです。

 

ところで、『天守物語』の富姫のイメージというと、私は映画『雨月物語』(溝口健二監督が巻のニ「浅茅が宿」をアレンジした名作)で主人公を虜にする妖怪・若狭姫を演じた京マチ子さんを思い出します。

 

雨月物語』もこの機会に読み返そうと、古い本をひっぱりだしてきました。

一篇一篇が短い9つの短編から成り、流れるような文体も美しいのですが、私が持っているのは角川から出ている本ですが、文章のところどころに原本にあった挿絵も描かれていて、なかなか風情があります。

この巻の一は、白峯というタイトルですが、地理的には香川県坂出市青梅町にある祟徳院の御陵がある場所で、讃岐の国白峯を詣でた西行法師が院の亡霊と論争し、怨恨を慰めようとするところから始まります。

 

祟徳院は「瀬を早み 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ」と詠った鳥羽天皇の第一皇子ですが、1123年に5歳で天皇の位を譲り受けましが、18年の在位の後に譲位を余儀なくされ、皇位継承問題や摂関家の内紛による保元の乱に破れると讃岐に流され、45歳で没した悲劇の皇子でした。

 

上田秋成雨月物語』そして泉鏡花の作品群。彼らが描いてみせる陰の暗闇にじっと眼を凝らすと、やがてその曖昧さの中に妖しい影が確かな存在感を持って現れ、まだ人間の知り得ていない世界の不可思議が浮かび上がってくるようです。

 

秋気肌に染む時節、どうかお体にお気をつけて健やかにお過ごしください。