多田羅迪夫紹介ブログ

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令和4年10月末 山茶花の香りに想うことども

秋風にさざんか(山茶花)のいい香りがふわりと漂ってきました。
山茶花は秋から真冬に咲く花です。
薔薇にも椿にも似た山茶花
椿は冬から春にかけて咲くのですが、椿にはほとんど匂いがありません。

日本では『椿姫』のタイトルで知られるパリの高級娼婦ヴィオレッタ・ヴァレリー
フランチェスコ・マリア・ピアーヴェが台本を書きジュゼッペ・ヴェルディが1853年にオペラとして作曲しました。
オペラの原作となったアレクサンドル・デュマ・フィスの小説「La Dame aux Camélias」(椿の花の貴婦人)から、日本では『椿姫』というタイトルが定着していますが、オペラの正式名称は「La Traviata」(直訳は「道を踏み外した女」)。

「椿ほ花には匂いがないから、金持ちの男には心がないから。だから私は好き。」この言葉をヴィオレッタに言わしめたのは、
「『椿姫』と娼婦マリ」などを執筆した映画評論家で随筆家の秦 早穂子(はた さほこ)さんだったでしょうか。

デュマの原作の「La Dame aux Camélias」(椿の花の貴婦人)は、デュマの実体験に基づくものでもあり、19世紀のパリで、貴族や大金持ちなどのパトロンたちに囲われ、結核のために23歳で没したマリ・デュプレシスがモデルとなっています。
小説では、夜の世界に生き、観劇の時、月の25日間は白い椿、残り5日の生理期間には、桟敷のテーブルに必ず白か赤の椿の花を目印として置いていたということです。肺病だったヴィオレッタは、強い香りが嫌いでした。ほとんど匂いのない椿の花、そしてはらはらとは散らず、散るときには首からそっくり丸ごとポトリと落ちる花を選んだということでしょうか。

主人公の名はマルグリット・デュプレシでしたが、ヴェルディのオペラでは、「すみれ」を意味するヴィオレッタという名前となっています。
マルグリットという名前がヴェルディの前妻の名、マルゲリータバレッツィ(Margeherita Barezzi)を想起させるからでしょう。
ヴァレリーはローマ語の「valere」またはラテン語の「valeo」、「強くて健康になる」という意味に由来があるようです。
そしてデュマの小説では、主人公は恋人アルマンと会うことなく死んでゆくのですが、オペラでは、第3幕で、瀕死のヴィオレッタの元に改心したアルフレードが駆け付け、「パリを離れて一緒に暮らそう。」という感動的な愛の二重唱が歌われ、皆が見守る中、ヴィオレッタは、「不思議だわ。痛みが消えたわ。ああ!私、きっと生きられるのね、」と絶唱し、「ああ、嬉しいわ」と言って息絶えるのです。

第1幕のアルフレードテノール)とヴィオレッタ(ソプラノ)による2重唱「乾杯の歌」、ヴィオレッタの「ああ、そはかの人か~花から花へ~」や父ジェルモン(バリトン)が息子アルフレードに対し、家族のもとに帰ってくるよう語りかける「プロヴァンスの海と陸(「Di Provenza il mar, il suol)」
は、オペラを観ていない方でもきっとどこかで耳になさったことがあるのではないでしょうか。