海は私の原風景
懐かしい舞台写真です。
こちらは小澤征爾さん指揮のヘネシーオペラで、ワーグナー『さまよえるオランダ人』に出演した際のもの。
懐かしいですね。
「自分が海の民か山の民かと聞かれたら、僕はきっと海の者。親しみ深いのは海ですね。香川県生まれで瀬戸内海の御供所(ごぶしょ)海岸で、小さい頃から高校生まで真っ黒になってどぼーんと海に飛び込んで素潜りしてました。
今は瀬戸大橋の陸橋が架かって泳げないけれど。潮の香りを嗅いで育ったから、海は僕にとっての癒しの場。潮の香りで安心できる。音楽も海をテーマにしたものを聴くのが好きですね。」
「さまよえるオランダ人に共感するのは、そのナイーブさ。彼の心には世間体とか体裁とか駆け引きがない。ストレートに自分を愛してくれる女性を求めてやまない。ゼンタに対しても、あんなに財宝をざくざく持っていて、父親のダーラントはほいほい話に乗ってぜひ婿にと気に入られても、彼は人の心はお金では買えないことをわかっているから、金に物を言わせてという態度は微塵もなく、ちゃんとゼンタに確認するんです。二人きりになったデュエットのとき「お父さんが約束してくれたように私と一緒になることに、あなたは本当に心から賛同してくれるのですか。悩みに満ちた私にあなたの真心を与えてくださるのでしょうか」と。その場面にくるといつも何かワーグナーの清冽な音楽の神髄にふれて、琴線が震えるような気持ちになります。」
寡黙な哲人ファン・ダム
以前にさまよえるオランダ人に出演したとき、ホセ・ファン・ダムさんとダブル・キャストでした。
「ホセ・ファン・ダムさんの演奏はオペラで共演する前から歌曲でよく聴いていました。実際にお会いしたら、寡黙な哲人という風で、無口だけれど温かいオーラがあって。いま60代半ばのはずですが、最近もモネの「影のない女」で男盛りのバラクを生き生きと歌ってスゴイなぁと。音楽性も含めて、その演奏家としてのありようは、私にとってある目標であり規範となっていました。」